KAME プロジェクト便り

山本和彦
IIJ 技術研究所
BSD Magazine No. 6 (2000/12)


第6回 姉妹プロジェクト

KAME プロジェクトの姉妹プロジェクトに、 TAHI プロジェクトと USAGI プロジェクトがあります。 今回は、これらの姉妹プロジェクトを紹介します。 また、Mobile IPv6 の近況に触れ、さらに IPv6 Summit を宣伝させてもらいます。


TAHI プロジェクト

TAHI プロジェクトは、横河電機/YDC が中心となって、 IPv6 や IPsec の実装に対し、 質の高い検証手段を提供することを目的として活動しています。 検証手段には、「仕様適合テスト」と「相互接続性テスト」があります。

「仕様適合テスト」とは、ある実装が仕様である RFC に正しく従っているかというテストです。 IPv6 の仕様は膨大ですので、 すべての可能性をテストするのは無理な話です。 TAHI プロジェクトでは、 重要な項目をできるだけ多く拾い上げた実践的なテストツールを提供しています。

KAME の実装はどんどん変わっていきますから、 ある時点で正しく動いていた部分が、 変更が加えられた後に動かなくなっていることがあります。 一度正しいと思い込んだところに対しては、 再検証が疎かになりがちです。 そこで、テストツールはとても役に立ちます。 この 2 年間リリースしてきた stable バージョンは、 必ずこのテストを受けていました。

「相互接続性テスト」とは、別々に開発された実装を持ち寄り、 あるストーリーを決めて通信させ、 うまくいくかを検証するテストです。 相互接続性テストを実際にやってみると、 今まで気づかなかったバグを発見することもしばしばです。

基礎技術である IPv6 のテストは目立たない分野です。 しかしながら、ある実装の品質を客観的に示すことができるのは、 とても素晴らしいことです。

たとえば、多くの人が Windows 2000 の IPv6 スタックの品質に関心を持っていることでしょう。 TAHI のテストを通じて、Windows 2000 の IPv6 スタックは、 KAME のそれと同様、高品質であることが示されています。


USAGI プロジェクト

BSD の雑誌に、Windows 2000 の話題を出したことは恐縮の至りですが、 さらに恐縮して Linux の話をします。 現時点で IPv6 コードの品質が一番低いのは Linux ではないかと、 私は考えています。 事実、TAHI プロジェクトのテスト結果からも、それは明らかです。

USAGI プロジェクトは、 慶応義塾大学の関谷さんと東北大学の吉藤さんが中心となって、 品質の高い IPv6 コードを提供するために結成されました。 開発は始まっており、11月1日に最初のリリースが出ました。

USAGI プロジェクトに興味のある方、 協力していただける方は、 ここを参照して下さい。


Mobile IPv6

KAME の snap には、Ericsson が開発した Mobile IPv6 のコードが含まれています。 しかし、このコードは *BSD* 本家にはマージされていません。

現在、KAME をプラットフォームとして開発されている Mobile IPv6 のコードには、 上記の Ericsson、NEC、慶應義塾大学の 3 つがあります。 それぞれに一長一短があり、また相互接続テストもやっていませんので、 今すぐどれかを選択するという状況ではありません。

KAME プロジェクトとしては、最終的に3 つのコードがマージされ、 3 つの組織の人たちが互いに協力して保守開発する体制ができるとよいと考えています。

これに対する第一歩として、TAHI プロジェクトの協力を得ながら、 3 つの実装の相互接続テストを実施する予定です。


IPv6 Summit

本誌の発売が12月14日ですから、もうほとんど余裕がありませんが、 12月18、19日に大阪の国際会議上で、 Global IPv6 Summit in Japanが開催されます。

IPv6 の有名人が一同に会し、本音で議論しますので、ぜひ参加して下さい。