KAME プロジェクト便り

山本和彦
IIJ 技術研究所
BSD Magazine No. 17 (2003/9)


第17回 IPv6 ShowCase の報告

2003年7月2日から4日にかけて、幕張メッセで N+I Tokyo 2003 が開催されました。 その中で、今回も IPv6 ShowCase を設け、 さまざまな機器やサービスを展示しましたので、ここに報告します。


IPv6 ShowCase の概要

今年は、プラチナスポンサーにシスコシステムズと日立製作所の 2 社、 ゴールドスポンサーに 2 社、シルバースポンサーに 6 社と、 多数の企業からご支援を頂きました。 スポンサーを除く参加企業は 22 社、後援 1 組織、特別協力 1 組織、 協力 2 社と、昨年よりも一段と盛大なブースとなりました(写真1)。

具体的な会社/組織名は、 IPv6 ShowCase のホームページを参照して下さい。

今年のテーマは、昨年の「IPv6 の町」を越えるため、「IPv6, beyond the net」 にしました。これまでの「IPv4 の世界」を凌駕するという願いが込められていま す。(誰か来年のテーマを考えて下さい。^^;)

昨年の反省の内、今年改善されたのは 3点です。

1点目は、昨年設けた一般展示という浮いた存在のコーナーをなくしたことです。 今年は、8つのゾーンを設け、参加社は各ゾーンのテーマの中で、 IPv6 のサービスや製品をどう表現するか考えて頂くことにしました。

2点目は、順路を設けたこと。昨年は順路がなく、 説明の順番は説明員の力量に任されていました。 今年は、一般消費者に近い家庭ゾーンから、 遠い ISP/データセンタゾーンへお客さんが流れるように、ブースを設計しました。

3点目は、誰が説明員かすぐ分るように、ユニフォームを用意したこと。 ユニフォームには、(サッカーの紅白戦で使う)赤いビブスを選び、 背番号は 6 としました。

以下では、各ゾーンについて説明します。


ステージ

ステージでは、各スポンサーから製品やサービスに関する説明と、 我々がお願いした方から中立で一般的な発表がありました。 ホームページのステージスケジュールを見て頂くと分りますが、 切目がない程に、たくさんの発表をして頂きました。

昨年までは、どの発表も溢れんばかりに人が集まっていたのですが、 今年は違ったようです。 来場者の方は、 まず IPv6 ShowCase に来るとステージスケジュールを見てお目当ての発表の時間を調べ、 一旦会場を回る。 そして時間になったら発表を聞きに戻って来るという傾向が見受けられました。

そのため、まぁまぁ人が集まる発表と、 押し合いになるぐらいに集まる発表とに分れていたように思います。 来場者の方も、毎年のことで、学習しているんだなぁと感じました。


Web カメラゾーン

ステージの後方にある柱の上には、Web カメラゾーンを設け、CEC、NEC、 Panasonic の Web カメラを設置しました。 ステージの映像は、他のゾーンのデモに利用されました。


家庭ゾーン

今回の目玉は何と言っても、買いたくなるような家電が現れたことでしょう。

まずは SANYO のデジカメ(写真2)。昨年の IPv6 ShowCase では、 外付けアダプターがIPv6 を喋っていました。 昨年夏には、 CF の部分に無線LANのカードを刺して IPv4 を喋るデジカメができていました。 そして、ついに無線 LAN で IPv6 もサポートしたデジカメが登場しました。

これにより、撮った写真を無線で飛ばして、 IPv6 サーバに蓄えたり、簡単な動画チャットシステムに応用したりできます。 携帯電話も PDA も、結局究極のウェアラブルコンピュータ、 すなわち音声や高画質の動画やスケジューラなどが簡単に使える小さなデバイスを志向しているのでしょう。 SANYO は、デジカメからそこを目指しています。

次は、FreeBit が Feel6 の一環として展示していた SONY の CoCoon という HDD レコーダ(写真3)。 もちろん IPv6 を利用して、番組の録画か可能です。 今回は、NTTドコモの携帯電話から CoCoon にアクセスしていました。 残念ながら、NTTドコモの携帯電話は IPv6 を喋りませんので、 NTTドコモ網から IPv4 インターネットに行き、 FreeBit のトランスレータで IPv6 に変換する仕組みを利用していました。

KDDI は au の携帯電話を持ち込み、 National のエアコンと電子レンジを操作していました。 これも、KDDI が運用しているトランスレータを用いています。

Panasonic は、IPv6 に対応した web カメラを 2 種類参考展示していました(写真4)。 どちらも、現在は IPv4 の製品として発売されています。 IPv6 対応版の商品化計画もありそうですので、今から楽しみですね。 (欲を言えば、もうちょっと値段が下がるといいのですが。)

家庭ゾーンのサブゾーンとして、エンベッド(組み込み)ゾーンを設けていました。 組み込みを家庭ゾーンの一部にしたのは、 家電に組み込まれると説明するのが分りやすいと考えたからです。

興味深かったのは、ACCESS の TCP/IP プロトコルスタック AVE-TCP。 これは、PlayStation 2 や GAMECUBE のいくつかのゲームソフトに利用されています。 これらのゲーム機では、ゲームソフト自体にプロトコルスタックが入っています。 つまり、ゲームソフトが IPv6 対応のプロトコルスタックを採用するだけで、 IPv6 対応になります。


ユービキタスゾーン

KAME プロジェクトと USAGI プロジェクトは、 Mobile IPv6 のデモをやりました(写真5)。 このデモは将来の携帯電話を考えながら見ると面白かったと思います。

携帯電話が使うのは限られた周波数帯域であり、 携帯電話のユーザ数が増えれば、一人当りの帯域は減少します。 このため、将来の携帯電話は、 場所によって適切な通信媒体、 たとえば高速な無線 LAN、を利用する機能が必要になります。

現在の携帯電話のプロトコルは、 無線LAN など他の通信媒体に応用することができません。 通信媒体に依存しない仕組みを考えるとき、 IP は自然な選択といえるでしょう。 また、グローバルな空間にたくさんの電話がつながるのですから、 自ずと IPv6 になります。 しかしながら、IPv6 にはモバイルの機能がありませんので、 Mobile IPv6 の登場とあいなります。

Mobile IPv6 を使えば、ネットワークを渡り歩きながら、 同じアドレスを利用できます。 これは、適切な通信媒体を選択し、 かつ発信着信が可能なことを意味しています。

KAME では、100BaseTX と無線 LAN の通信媒体を切り替えても通信が継続するデモと、 移動しても着信が可能であることを示すモバイルサーバのデモをしました。

シスコシステムズは、モバイルルータの展示をしていました。 たとえば、自動車にモバイルルータを設置すれば、 それにつながる IPv6 ノードは自動的にMobile IPv6 の機能を持つことになります。


アクセスゾーン

アクセスゾーンでは、アクセスルータなどの展示があり、 ISP から家庭へ IPv6 のアドレス空間を割り当てる Prefix Deligation をデモしていました。

また、アライドテレシスは、MLD Snooping に対応したスイッチを展示していました。 MLD Snooping に対応していないと、 マルチキャストパケットをすべてのポートにブロードキャストしなければなりません。 対応していれば、 マルチキャストを受信するノードがつながっているポートだけにパケットを配ることが可能になります。 ようやくスイッチが IPv6マルチキャスト対応したかと、感慨深いものがありました。


オフィスゾーン

オレンジソフトは、Fatware の販売代理店になったそうで、 DVcommXP を使いDVTS のデモをしていました。 DVTS の転送レートは 30Mbps と広帯域を必要としますが、 ブロードバンド化の波に乗って、将来は MPEG などに取って代わるのでしょうか。

NTT コミュニケーションズは P2P 環境におけるセキュリティ技術を展示していました。 今後こういった製品やサービスが増えることを願います。


ネットワーク管理ゾーン

ネットワーク管理ゾーンで目新しいと言えば、 日本コーネットテクノロジーのネットワークシミュレータと東陽テクニカのテスターでしょうか。 IPv4 では当たり前の技術が、IPv6 にも裾野を拡げたという感じです。


ISP/データセンタゾーン

ISP/データセンタゾーンには、各メーカのルータなどをラックに積んで展示しました。 今年の特色としては、 経路制御プロトコル IS-ISv6 の相互接続を検証できたことが挙げられます。

また、N+I会場内TV放送(ShowNet TV)を各ゾーンへ IPv6 マルチキャストで中継しました。 Broadband Showcaseのみなさん、ご協力ありがとうございます。 動画の方式としては、 Windows 2003 Server のWMT9 を用いました。 ルータだけでなく、 送信サーバや受信クライアントのIPv6マルチキャスト対応も着実に進んでいることを示せたと思います。

残念ながらBSD使いの人は、このサービスを受けられませんでした。 mplayerはIPv6ユニキャストでなら WMT9 を受信できますが、 マルチキャストでは受信できないからです。 どなたかmplayerを IPv6マルチキャストに対応させませんか?

個人的に興味を持ったのは、日立製作所のルータである GR シリーズ。 デザインがぐっとよくなりました。 また、IP Infusion の ZebOS を搭載したルータも新しい製品として目を惹きました。


LAB ゾーン

IPv6 普及・高度化推進協議会が、アプリケーションコンテストの応募作品を展示していました。


おまけ

IPv6 ShowCase の準備をしている段階で、 N+I のホームページで検索されたキーワードの一位が「IPv6」であることが分りました。 関係者一堂、気を引きしめて最後の仕上げにかかりました。 最終的な検索数は 2 万を越えており、一位の座を守っています。

今年は IPv6 ShowCase にコンパニオンがいました。 責任者の僕も当日まで知らされておらず、ちょっとビックリしました。:-)