KAME プロジェクト便り

山本和彦
IIJ 技術研究所
BSD Magazine No. 13 (2002/09)


第13回 N+I と IETF

今回は、N+I 2002 Tokyo IPv6 Showcase と第54回 IETF 横浜について報告します。


IPv6 Showcase

N+I 2002 Tokyo は 7月3日から7月5日にかけて幕張メッセで開催され、 その中に設けられた IPv6 Showcase は今年で 3 回目の試みとなりました。

シスコシステムズ、日立製作所、マイクロソフトがプラチナスポンサーになって下さいました。 また、ゴールドスポンサーに 4 社、シルバースポンサーに 3 社、 その他の参加が 25 社、3団体とまことに盛大なブースとなりました。

昨年のテーマは IPv6 で接続された家庭ネットワークでした。 「ポポちゃんの部屋」というキーワードを思い出しませんか? 今年は昨年を越えなければなりません。 そこでテーマを広げ、ブースを IPv6 で有機的に繋がった町に見立てました。 町には、ステージと 4 つのゾーンを設けました。

家庭ゾーン

家庭ゾーンは、「ポポちゃんの部屋」の延長であり、 家庭用のルータや家電、ゲーム機を展示しました。

私のお気に入りは、SANYO のデジタルカメラです。 IPv6 を喋るアダプタを付ければ、 内部の画像を HTTP で閲覧することができます。 近い将来、IPv6 の機能と無線 LAN がデジタルカメラの内部に組み込まれることでしょう。

このデジタルカメラのように、IPv6 の特性を活かした製品が出てくることが私の夢です。 (誰か早くビデオデッキや HD レコーダに IPv6 を組み込んで頂けないでしょうか?)

ISP ゾーン

ISP ゾーンには、5 つのラックを立て、 ルータや DSL のバックエンドである BAS(Broadband Access Server) といった製品を展示しました。 ルータのほとんどは、 IPv6 パケットの転送をハードウェアで実現しており、 IPv4 のそれと遜色ない性能を出していました。 また、OSPFv3 や ISIS の実装も進んでいました。

アドレス空間の配布

家庭ゾーンと ISP ゾーンでは、 ISP から家庭へ IPv6 のアドレス空間を配布するデモをしました。 IPv4 であれば PPP を使って、アドレスを 1 つ取得できます。 IPv6 では、DHCPv6 を使って「アドレス空間」を取得できます。

これまで ADSL を用いて家庭を IPv6 で接続しようとすると、 前出の BAS が IPv4 しかサポートしていないため、 IPv6 over IPv4 トンネルを利用せざるを得ない状況でした。 8 月より NTT コミュニケーションズが ACCA と組んで、 アドレス空間の自動配布のサービスを始めたことは嬉しいニュースです。 他の ADSL 会社も ACCA に追従して欲しいと思います。

モバイルゾーン

モバイルゾーンでは、インターネット自動車と Mobile IPv6 を喋るノードを展示しました。

昨年もインターネット自動車を展示していましたが、 それはモバイル・ノードとしての機能しか持っていませんでした。 今年は、車内にネットワークを構築し、 ネットワークごと移動するモバイル・ネットワークが実現されていました。

モバイル・ルータのおかげで、 Mobile IPv6 の機能を持っていないノードも移動しながら通信できます。 たとえば、Mobile IPv6 を実装していない Windows 2000 が車内に設置され、 実際にインターネットと通信できていました。

Mobile IPv6 を実装としては、いくつかの PDA とホーム・エージェントを展示しました。 iPAQ にはヘルシンキ大学の Mobile IPv6 を組み込んだ Linux が搭載されていました。 Zaurus のほぼ同様のですが、カーネルとしては、 USAGI Linux を使っていました。 KAME プロジェクトは、KAME の実装をカメラ付きの Vaio に搭載し、 モバイル・サーバとしてデモをしました。 PDA 自体がかわいらしいこともあり、かなり好評だったようです。

一般ゾーン

一般ゾーンは、上記の分類に当てはまらない IPv6 製品を展示しました。 アクセンス・テクノロジーが IPv6 対応の Radius サーバを出展し、 上記の BAS と連動してデモをしていました。

ステージ

ステージでは、スポンサーよる製品紹介、 および Mobile IPv6 やアドレス空間の自動配布など最新技術の説明がありました。

おわりに

手前みそですが、IPv6 Showcase は最も人気を博したブースの 1 つであり、 昨年にも増してIPv6 の重要性をアピールできたと思います。


第54回 IETF 横浜

第54回目の IETF は、7月14日から7月19 日にかけて、 パシフィコ横浜で開催されました。 スポンサーを富士通、ホストを WIDE プロジェクトが務めました。

IETF は年3回の会合の内、2 回をアメリカ、 1 回をアメリカ以外の国で開催することになっています。 アメリカ以外の国は、貢献度によって選択されますので、 日本での開催は、日本人の活動が評価されているからだと考えてよいでしょう。

約 2000 名の参加者があり、アメリカ以外の国での開催としては、 ロンドンに次ぐ規模になりました。 また、IPv6 が最も進んだ日本での実施なので、 意図的に IPv6 色が強く出されたことも特徴として挙げられるでしょう。

KAME プロジェクトは NOC (Network Operation Center) メンバーとしてネットワークの構築運営に携わるとともに、 主目的である標準化作業においても IPv6 や Mobile IPv6 の分科会に積極的に関わりました。

以下では、ネットワーク、標準化作業、パネルに分けて報告します。

ネットワーク

今回の IETF では、文字通り、いつでもどこでも IPv6 が利用できる環境が提供されました。

成田空港はアジアのハブを目指している割りには、 無線 LAN によるインターネット環境がなく、 シンガポールのチャンギ空港と比べて見劣りしていました。 ワールドカップを期に、ようやく無線 LAN サービスが無償で提供されるようになりました。

会場への主要交通機関である成田エクスプレスのグリーン車にも、 期間限定ですが無線 LAN が提供されました。 (グリーン車の隣の車両でも利用できたようです。:-) インターネットへの接続には FOMA が利用され、移動通信を実現していました。

富士通と WIDE プロジェクトからなる NOC チームは、 端末室の机に RJ 45 端子を出すと共に、すべての会議室を無線 LAN でカバーしました。

また、隣接するインターコンチネンタルホテルや、 非公式ながら近くのスターバックスも無線 LAN でカバーしました。

むろんこれらのネットワークでは、 すべて IPv6 を利用可能にしました。 IETF の参加者は、あたかも IPv6 を呼吸しているかのように身近に感じられたことでしょう。 なお全体会議での挙手によると、 参加者の 7 割程度が IPv6 を利用しているようでした。

標準化作業

IPv6 分科会で話し合われた内容の内、 重要なのは、アドレス空間の配布方式や DNS サーバ探索です。 これらを優先的に標準化していくことになりました。 日本で IPv6 のビジネスを展開していく上で不可欠な技術ですので、 早急な仕様策定が望まれています。

発表者の内、4名は日本人でした。 KAME からは、神明さんと萩野(いとぢゅん)さんが、 スコープ付アドレスや Anycast について発表していました。

IPv6 分科会からの要請で、 非公式ですが休憩時間に日本での IPv6 の応用(ゲーム機、自動車、家電)を紹介する機会が設けれました。

全体会議

全体会議では、IPv6 のパネルが企画され、 KAME プロジェクトの神明さん、角川さん、 萩野さんがパネリストとして発表していました。 このパネルの主旨は、IPv6 の夢ではなく、現実を客観的に伝えることです。

角川さんの「『IPv4 ではユーザ当り 5 ドルかかるが、 IPv6 なら 3 ドルでできる』のような分りやすい説明が IPv6 のビジネス展開には必要」という言葉が印象的でした。

おわりに

この IETF を通じて、IPv6 懐疑派の懸念は一掃された感があり、 IETF 全体で IPv6 をサポートしていく機運が高まると嬉しい限りです。